「この戦争が終わったら、何するかって。考えたことあるか?」
ずきり、と胸が痛んだ。そんな風に考えたことはない。すべて奪われたあの日からずっと、戦場で生きるということしか頭になかった。そもそも仇を討ったあとのことでさえ考えてもいなかったのだから、当然といえば当然だろう。
「顔に出てるぞ」
そう言って隊長は苦笑した。反射的に顔を背ける。
「僕もだけどな。そもそもこの戦争が終わるなんてことすら、思いつかなかった」
今日の彼がいつにもまして饒舌なのは、酒が入っているからだ。俺はまだ未成年だから飲めないが、このまま歳を重ねたとしても飲もうとは思わない。酒を飲んだ他の隊員に絡まれたのは一度や二度じゃないし、馬鹿騒ぎしている奴らを見てああなろうと思えるのはそれこそ馬鹿だけだ。ただ、記憶している限り隊長が飲んでいる姿を見るのは初めてだった。
「……故郷に戻ったら、どうやって暮らすんだろうな、と」
グラスの中身を一息にあおると、彼はそれ以上注がなかった。満足したのだろうか。その姿を横目に見ていると、なんだか腹の底が苛立って、俺はそれをぶつけるように口を開いた。
「あんたなら、普通に暮らせるんだろうな」
八つ当たりでしかない言葉に、温厚な隊長は腹も立てないだろう。いや、表に出していないだけで内心怒っているのかもしれないが。
思った通り、隣からは怒りの気配も感じない。ぶつけたものを受け流されることほど気持ち悪いこともないが、この人の場合はいつもだから、いい加減それに対してムカつくこともなかった。
「どうかな。毎日悪夢にうなされているかもしれない」
「あんたが?」
「ああ」
どうにも含みのある言い方だったが、わざわざ掘り下げることもない。目を閉じて、少しだけ兵士でない自分を想像しようとした。が、どうしてもその姿が浮かばない。
「……戦いが終わるなんて、考えるだけ無駄だ」
それもそうだな、と答える声がその日の最後になった。このまま歳を重ねて、大人になったら何をしているかなんて、以前は気にしたこともなかった。ただ目の前のことを成し遂げるのに必死で、それから何も信じられなくなって。いまも隣の男すら信じていいのかわからないのに、こうして言葉を交わしている。
理由も未来もどうでもいい。そうも言っていられなくなったということだ。隣にいる彼のせいで、いつの間にやらそうなってしまった。
その思考を無理やり打ち切って、俺は席を立った。今日は良く眠れると良いが。