「はは、ありがとう。また死んじゃったのか」
毎度思うが、いくら神の御業とはいえ棺桶に息もなく眠っていたものがきれいさっぱり元気に目を醒ますのはとても不自然だ。彼などは死を経験しすぎてどこか何かがずれてきているのではないだろうか。目の前で申し訳なさげに笑う少年を見ながら、もうひとりの少年は考える。
「やっぱり、覚えていないんだな」
「うん? それは一緒に旅するようになったころから、わかっていたことだろ」
彼の言うとおり旅の道連れが増えてからわかっていたことだが、一度肉体より離れた魂を呼び戻され蘇生されたとき、その死の直前に関する記憶はない。その会話を少し離れたところで聞いているムーンブルクの王女は、胸の前できゅっと拳を握った。
「……ごめんなさい。わたしが魔力を遣いすぎていなければ、あんなことには……」
「ど、どうかしたの? いつになく深刻だけど……」
「メガンテを使ったんだ」
その言葉は当人が目醒めたときから喉につかえていたが、あらぬ責任を感じた少女の様子を見て、ローレシアの王子は吐き出すのを我慢できなかった。この胸でふつふつと沸きあがるのは怒りなのか、それとも悔しさなのか。こんなふうに感じたのは初めてだ。そう思いつつ、自分も拳を強く握る。
「英断だったさ。薬草も魔力も尽きていたし、最後まで粘った」
言いながら、台詞がひどく虚ろに思えた。ただ事実を述べて報告しているだけのような。少女は俯きがちに薄い唇を結んで、少し癖のある長い金髪に表情を隠していたが、口元を見るだけでどんな顔をしているかおおよそ推測できた。
サマルトリアの王子はその言葉と記憶にある最後の光景からすべてを察したようで、同じように口を噤む。しばしの沈黙が流れた。三人の誰もが抱える感情に答えを出すことができず、ただ時は刻まれていく。
「……もう使わない、と約束することはできないよ。また同じような状況になったら、ぼくはふたりのために命を捨てる」
「君は……」
「じゃあさ、そうならないようにするだけだろ?」
そう言って、少年はまた微笑んだ。いつものどこか気の抜ける笑みだ。ローレシアの王子は毒気を抜かれ、顔を上げたムーンブルクの王女は驚きと悔しさの入り混じった複雑な表情をし、それからふたりとも同じように笑った。
「本当に呑気だな、君は」
「ええ。気に病んでいたのがばかみたい」
「ぼくは真面目なんだが……」