~2012

2012年までに書いたもの

 

  • すこしだけ見逃して

    ※学パロで体育教師×保険医 「記念すべき十回目だ」 これでもかと消毒液を染みこませた綿をピンセットで摘み、それを患者の膝の傷にぐいと押しつけながら言峰は、笑みを浮かべた口で呟いた。

  • いつかこの足で歩み寄る

    「め、迷惑です、よね」 そう云いながら彼女はいつもの調子で、おずおずとコロッケサンドを僕に差し出した。迷惑も何も、何だこれは、と思う。差し出しているのだから、くれるのだというのは解るけれど。

  • 汚れないでほしい

    「もったいないよ」 「…何が?」 「この髪。戦場って、埃とか破片とか、たくさん散るだろ」 涯の金糸のような髪の一房に指を通し、少し見惚れる目をして集は云った。

  • 曖昧にしたままで

    好きになどなってやるものか。首筋にひりつくような痛みを感じながら、その箇所から喉へせり上がってくるものをごくりと呑み込んだ。ややあって俺の項から唇を離した言峰は、細い指の一本一本から手のひらで俺の頬に触れて、笑った。俺はいま、とても嫌そうな顔をしているだろう。言峰がこういう人間だとは知っていたはずだが。

  • 泣かないで、泣いて

    「眼帯、外してもいいか」 「ああ。お好きにどうぞ」 吐息がかかりそうなほどの距離で神妙に見つめながら、クロウは視線の先の眼帯に触れた。

  • できるなら口にするのはやめてほしい

    完全に油断していたために右腕を絡めとられていて動かせない。まさにされるがまま、という状況だった。誰だってそうだろうが、こうなるのは決して好きではない。 「……どうしてそんなに固いんですか」 「当たり前だろ」 「わかりません」

  • やさしさを押しつけ合う

    乱雑でも優しげな撫で方は、彼の根本の性格を良く表していた。 「大丈夫、平気さ、ナイン」 名前を呼びながらも、低く呟いたそれは自分に対してだけの励ましではなかった、とナインは思う。だからこそ悔しかった。

  • 読まれているのか

    「綺礼」 彼の声はいつだって愉しそうだ。羨ましいと思ったこともあるが、所詮その程度の感情のままいつしか忘れた。一瞥すれば彼はにやにやと笑みながら手招きをしていたから、綺礼は何も見なかった振りをする。

  • 出会ってしまった

    ※綺礼の歳が中学生くらい(という設定が一応ある) こういうものを綺麗と云うのだろうな、と目の前の光を見て綺礼は淡々と思った。頭に乗った手は生温かく、ヒトの体温を伝える。こんなに人間離れした外見をしているのに。 「可愛げのないやつめ」

  • きみの生まれた日だから

    「今日一日は、一緒に居てやるよ」 「……それはまた」 昇りきった日の光を窓際で浴びながら、愛銃の手入れをしながらキングは無精気味に答えた。

  • それでも、という言葉

    「非生産的って言葉知ってるか」 「…」 「春原が知ってる訳ねーな。俺らみたいなのを云うんだと」

  • ハイリスクハイリターン

    彼女が無表情じゃないところをそのとき初めて見た。形の良い唇を震えさせて柔らかそうな頬を赤くして、なんとなく伊波さんに似てたと云うことは彼女には黙っておくべきか。恋する乙女なんて似合いもしない。

  • 終わりのない自己分析とか

    子供の頃に一度だけ、もしかしたら自分は人間ではなく悪魔なのかもしれないと思い、親の部屋から密かに持ち出して聖水を頭から被ったことがある。ただやはりそれは自分に対してはただの水であり(悪魔なんてものが現世にいるかは定かでないからそれが聖水なのか正確ではないが)、被れば体が濡れるだけであった。

  • 例えるなら、ひと振りの剣のような

    「アイリスフィール」 「あら」 窓から夜空を眺めていると、背後から名前を呼ばれて振り返る。そこには時間に似つかわしくない真っ黒なスーツを来た少女がいた。

  • 薄ぼんやりとして

    「本名」 「ん」 「教えてくれねえのか」

  • ただただ熱い

    「えへへ」 普段の斗牙は、ものすごく可愛い。天然可愛い。その天然が珠に傷ではあるが、俺と同じくらいの歳だろうに、年下のように感じてしまう。 「……楽しいか? それ」

  • うっとうしい、二人

    「にゃー」 「…………」 「そんなにあからさまに引かないでくださいよ」 「引くなと云う方が無理難題だろう」

  • 救いのない関係

    ※ニルクロ前提 険しい顔つきで、ぱし、と手の甲を弾かれた。 「触らないでくれ」

  • それはきっと幼い愛情

    「トウヤ君。綺麗なものは怖いよ」 海の水に手の平を浸しながら呟いた。潮風に長い髪がさわさわ揺れる。

  • そういうことではないけど、まあ

    「俺が卒業したら、大丈夫かなあ、お前」 「どういう意味ですか、それ」 「なんとなく思っただけだが」

  • いっしょにいたい

    「花村って好きそうだよな」 「へ?」 主語が抜けていたために初めは、彼の手作りらしい弁当の中身を欲しがる目で見ていたのがバレたのか、と思った。

  • 知りたい、と思うことから

    マンションのベランダから、夜にしては明るすぎる街をすがめる。次に、相も変わらず無表情のまま、すぐ隣で同じ景色を見ている少女に目を向けた。しかし目を逸らす。視線に気づかれるのが怖くて、長く見ていられない。この距離で気づかない彼女も彼女だけど。

  • 夜空に視る

    ※会話文 「あれ、あの星。杏子みたい」 「何処がだよ」 「まず赤いじゃん。それと、他のより大きくて、他のより輝いてるとこ」

  • 所謂ツンデレ

    本当に女ってやつは面倒だ。特に今俺の胸に埋まってるこいつ。鼻を啜る音と微かな嗚咽。これ以上なく面倒くさい状況だった。子供をあやすみたいに、ぽんぽんと明るい緑色の頭を弱く叩く。

  • ある結果へ至るまで

    師よ、あなたは死を怖れぬのですか、と尋ねたときの答えを覚えていない。ただ、君はどうなのかね、と聞かれたことは覚えている。綺礼は一言わかりませんと答えて苦笑され、その会話は終わった。それは覚えている。彼はどう答えたのだっただろう。不意に思い出して、気になった。

  • 愛情表現だから

    「いや、好きだよ」 ……すごく嫌そうな顔をされた。何が気に障ったのだろう、俺のこと好きかって聞くから答えただけなのに。もしかして花村は俺が嫌いなんだろうか、それだけは絶対にないはずだけど。

  • 重なる面影

    傷をつけないようにそっと、力の加減に気をつけながら、指で緩く束ねた銀髪に櫛を通す。彼女の面影を感じずにはいられなかった。いつも正面からあの幼い表情を見ているときには気づかない、イリヤスフィールの母親の面影。

  • 片思いはつらいよ

    ※ニル←クロになるつもりだった 廊下にうずくまる人影があった。数歩近づけばそれが誰であるかは容易にわかったが、その人物はいま非常に声をかけづらい雰囲気を纏っていた。自分はあまりそういったことは気にならないのだが、特に話しかける理由もないので通りすぎようとする。

  • 一抹の不安

    ※女装 「……何してんのさ」 「どう思う、集」 「そんなこと云われても…そもそも、どうして僕に聞くんだよ」 「お前が男どもで一番若いからだ」

  • 世界で一番あまい病

    何が世界で一番好きかってもちろん、キースさんの笑顔が一番好きだ。いつもの爽やかな笑顔から、少し照れながら見せる笑みまで全部。もっと単純に云うならそれはキースさん自体が一番なんだけど。

  • かみさまは救ってくれないから

    「さやか、あたしがあんたのこと、好きって云ったらどうする。あんたが上條恭介に抱いている想いと同じ種類のものを、あたしがあんたに抱いているとしたら、ねえ」 暗闇に向かって呟いた。どうせ届かないと知っていれば、もう二度と届かないと知っていれば、その行動に意味はないのだから。

  • そのときにはどうか安らかなキスを

    気づいたら視界は薄い青に染まっていた。息ができない。止める。服が貼りついて肌に伝えてくる、冷酷。長時間水の中に沈んでいれば当然、人間は呼吸をなくして死んでしまう。そんな冷たさ。 目を閉じてふと、これは夢なんだと思った。水に沈んでいるはずなのに、息を止めているはずなのに、苦しくない。全然。もしかしたら感覚がなくなっていたりするのかもしれないけれど、とりあえずヘンな感覚だ。

  • 他力本願な幸福

    涙腺さえあれば泣くことくらい簡単だ。悲しくなくても痛くなくても涙を流すことはできる。何度も涙を流してきたけど、全部悲しいとか痛いとかそんな感情から来るものじゃなかった。涙は女の武器と云うから。

  • 神にでも祈ろうか

    那月は身長に目を瞑れば女の子みたいに可愛いと思う。奴はやたらと俺に対して可愛い可愛いと男にとっては不名誉極まりない形容詞を連発するけれど、名前も口調もふわふわの髪の毛もきらきら光る綺麗な目も、絶対に那月の方が可愛い。と、俺はずっと思っていた…

  • 気持ちなんて知らなくていい

    いつかどこかの昼下がり。とか適当な言葉で表せられるほどどうでも良い時間。 「ラグナ君はばかですねえ」 「黙れその声帯掻っ切ってやろうか」 「いいですけど、声が出なくなって筆談にしたら、ラグナ君読めないでしょう。漢字」 「漢字くらい読めるわ。お前は俺を何だと思ってんだ」

  • いつかは必ずと喉を涸らした

    「あの、虎撤さん。好きです」 「それ、さっきから4回目」 「数えてくれてるんですか」 「4回くらい数えなくてもわかるわ」 「おじさんなのに」 「やかましい」

  • 忘れてくれないか

    数日前のように、暖炉の前で二人で、グラスを傾けた。あの仕事の報酬代わり。ただ何もなく二人で呑むのは久々ではないだろうか。 「その女性は結局、君の何だったんだ」 「わからん」 「……そうか」

  • まっしろい永遠をきみと

    「良いときも悪いときも、富めるときも貧しいときも、病めるときも健やかなるときも、死が二人を分かつまで」 すらすらと斗牙は聞き覚えのある言葉を並べた。 「それ、結婚式の誓いの言葉……だよな」

  • 伝えたいたくさんのこと

    ※パラレルというかifというか 彼女は屋上のフェンスに座っている。落ちないのだろうかと思うけど、菓子ばかり食べている割には身軽なのだ。風も強いのに、揺らすのは長い髪だけで、器用にバランスをとっている。 「……あんた、いつもここにいるよね」

  • 甘くて甘い甘美

    所狭しと詰められていたのは、五百円玉くらいの大きさのチョコチップクッキーだった。「……手作り?」 「うん。お父さんにちょっと手伝ってもらっちゃったけど」

  • これで最後

    ひたすら、ひたすら彼は泣いた。気が済むまであと何時間。父を失ったときの自分のようだ、と思いだしながら、そのときに涙を受けとめたものが一体なんだったのか思いだせない。人ではなかった気がする。

  • そうして何もなかったように

    ※いろいろおかしい 「やめてくださいってばーあ…」 「ニャスニャスー」 「人語を喋ってくださいよう…」 「なにしてんだおまえらは」

  • 失われるだけ

    ※死ネタ 足下を見てしまった。人間が倒れている。生死はわからない。だがもし生きていたとしても、すぐに死が訪れるだろうことは確かだ。

  • 多分、過去なんてなくたって

    握ってみたらその左手は思ったよりしっかりしていて、驚いた。普段は、と云うか見た目はどう見てもだめなタイプのおじさんなのに。 たまにこの人はこう云うギャップ(って云ったらいいんだろうか)があって、それに出会うたび、ドキドキする。

  • もう二度と、

    痛いかよ、痛いだろ、それでいい。限界まで傷つけて喰らい尽くせばこいつのすべてを支配できるだろうか。そんなことになればそれはいい話だ。憎悪が欲情に変わったのはいつのことだったのか。互いに息が荒いのはもう長い時間ずっとそれをしていることの表しだった。正直、もうだいぶ疲れた。けれどそれをやめないのはこいつが気に入ったのか、と考えるとどうにも焦燥にかられる。

  • どうせあとに何も残らないのなら

    どうして彼が泣くのか緑髪の青年には理解できなかった。しかしそれはもうこれでもかと云うくらいに涙を流すので不安になって、手を伸ばした。 「…トウヤ君?」

  • デジャヴュ

    ※これほど容易く日は昇る の続きと云うか後日談と云うかとりあえず自分設定の塊です、注意。

  • これほど容易く日は昇る

    ※全力で死なせないEND ※各キャラ口調・性格ともに自分設定

  • The world end comes to the very front.

    夢を見ているなかで、“これは夢だ”とわかる夢のことを「めいせきむ」と云うらしい。漢字はむずかしいから覚えてないけど、どこかで、前読んだ本のなかに書いてあった。ああこれはその「めいせきむ」ってものなんだ、とわたしは思う。だってわたしはこれが夢だとわかっている。

  • 叶わないとわかっていてもきっとこれは、恋。

    「先生」 わたしは話しかけるけれど、彼は返事をよこしてはくれない。いつものことだ。

  • たまには会いたい

    「あー……煙草吸いて」 「吸えばいいじゃんよ」 「忘れたんだよ……」 「俺の吸う?」 「要らねェ」

  • 知りたくなかった、と思いきり泣きたかった

    「…あ、」 ほとんど息だけの驚嘆が漏れる。喉の奥で笑った。結局自分は自分だけが幸せならそれで良いんだと、今更ながらに気づいてしまった。そして、それでなければ人間長く生きてはいけないことも。

  • 結局は離れられない

    耳朶を叩く甘ったるい言葉。似合わない。どこからどう見てよく考えてみても似つかわしくない。別にマゾヒストの気はないけれど、もっと冷たくしてくれて良いんだ。その方が、ずっと生きてる心地がする。

  • 名残惜しいと思うこと

    背後から抱きつくと鼻腔を擽る香水の香り。これは向こうのものだろうか、なんて思いながら、彼の肩ごしに表情を窺う。目に見えて不服そうに口を尖らせていた。

  • 仔猫と彼

    ※仔猫とぼく のあと 「全然似てねえだろ、こいつ」 ばっさり切り捨てられた。当然と云えば当然だ。流石に大の大人に自分と小動物とが似ていると云われて、ああなるほどと簡単に納得する純粋な人間はいない。でも似ていると思うのだから仕方ないでしょう。無言に、両手で持ち上げた仔猫を彼の前に突きだす。

  • 仔猫とぼく

    薄汚れた茶色い毛をさわさわと撫でる。日が昇り始めた朝方のイル・ファン海停、早く起きすぎたので、人々が店を開ける準備をしているのは横目に海を見ていたらふと視界に入ったのだ。 汚れているから野良だとは思うけど、親はどこにいるのだろう。まだ幼いのに、はぐれてしまったのだろうか。

  • 包みこませて

    繋ぎとめていたいと思い始めたのはいつ頃からだったんだろう。一番初めに彼が別れを告げたときか。それから、何をどうしてこんなに屈折した感情に変わったのだろうか。屈折したというか、ただ複雑なだけだと思うけど、とりあえず面倒な何か。

  • ポッキーの日

    ※現パロ同棲設定 ビニール袋のものらしき音をがさがさ鳴らしながら彼は帰宅した。おかえり、と云ったら弾んだ声がただいま、と返ってくる。

  • 合鍵

    ※学パロ 呼びだされて手渡されたのは、彼の手より幾分小さな鍵だった。思わず驚いた顔で見上げてしまう。アルヴィンは苦笑して云った。

  • ずっとこうしていられるならそれはそれで

    「危なっかしいのは変わらないな、今でも」 「う……」 「皆は頼りになるー、とか云うけど、俺から見りゃまだまだ」

  • 満たされないグレー

    暴力は好きではないから、と云いながら彼は容赦なく俺の首を握り潰さんかぎりに絞める。俺だって人間だから、痛いもんは痛い。呼吸できないもんはできない。

  • きみが何をどう思おうときみの自由だけど

    ※学パロ それは幸せというものだよ。半分は冗談で云ったが、何も知らない彼はただ無表情で首を傾げた。今日も不発。 「……俺にはわかりません」 「そうか。構わないさ、それでも」

  • それでもきみは僕の前を歩いていくから

    ※発売前 「俺はさ、居場所を作るわけにはいかないんだ。お前もちゃんとした夢があるんならわかるだろ、そういう仕事なんだよ。ずっとふらふら彷徨って誰かに雇われて金をもらって、いつかはどこかで一人で死ぬ。それが俺の夢さ」 「そんな、……そんなの」 「それにお前が口を出す権利はない。それもわかるだろ、青少年」

  • 目を閉じていたらいい

    ※発売前 「お、なんだ。今度は鳥かよ?」 「うん、木の下に墜ちちゃってて」 「まだ雛なのか」 「だろうね。今から手当てするところ」

  • 埋め合わせ

    まだ暦の上では夏なのに、妙に寒い日だ。テントの中でも隙間風がやたらと突き刺さってくるので、昼寝をしていたのに妙に起きてしまって、横で武器の手入れをしているおっさんの上着の裾を引っ張る。

  • 好きだよと触れる

    「な――ちょッ、痛」 「よかった。本当に」 肩の骨がみしみしと悲鳴をあげそうなほど強く、ただ強く抱きしめられる。フレンのこんな姿を見るのは当然ではあるが初めてで、驚いた。

  • 知らなくてもいいこと

    ※学パロ 「あんたはどう思う?」 何かを知っている目で、青年は長い髪を揺らしながら尋ねる。いいや、案外何も知らなくてただの戯れかもしれない。む、とレイヴンは口をへの字に曲げて眉をひそめた。

  • やがて何にも成れないもの

    目尻の雫を人差し指で掬う、そうだ、これだ。感情的と生理的の違いなどもはやどうでもよかった。彼の涙。そう思うだけで自分の中に何かが、込みあげる。如何に彼の表情が微動だにしないままであっても。

  • 変わらぬさだめ

    彼は俺の腕を掴んだかと思えば、驚いて思わず開いた手の平を彼自身の喉に押しつけた。 「拓也」 「…どうしたんだ、檜山」 「殺してくれ。もう」

  • 忘れたいこと

    遠慮がちにへらへら笑う瓶底眼鏡。その笑顔を見ているとなんだかわからないが、沸々と感情が煮立っていく。

  • 言ってはならない

    どうしてだろう、いつからか自分の彼への想いに自信が持てなくなった。好きです、とどんなに繰り返しても、何かどこかが食い違っているように思えて仕方がないのだ。好きなのは確かなのに。

  • 理由を聞けたら

    檜山のその笑顔は、ときどき拓也に違和感を感じさせた。ときどき、本当に空虚なのだ。瞳の中はただ何もない伽藍洞になっていて、そう、云ってしまうなら人間のものではないような。

  • 鈍いなんて知っている

    「……す気かよ」 「は?」 「なんでもない」 見舞いに来てやったのにカズはやたら不機嫌だった。

  • 淋しがりと煙草

    ライターで火を点けてから、煙草の煙は嫌いだと云っていたあいつの顔が浮かんだ。いまとなっては無意識のうちでやっていることだが、独りでいるときだけ吸うようになったのは、そういえばそのせいだ。

  • 後悔ならば置いてきた

    久々に会った八神さんは、随分と髪が短くなっていた。正直に云えば一目見たときは誰かと思った。あの赤が波打つような髪が風に流れるのを見るのは、嫌いではなかったのだが。少し残念に思う。

  • つまり、愛してるってこと

    「……暑いよな、絶対」 「いや全く」 「嘘をつけ、嘘を! と云うか俺が暑い」 「うるさい、耳のすぐ近くで叫ぶな」

  • その目で見ていて

    初めて会ったときは、柄にもなくものすごく緊張した。拓也さんはレックスの相棒であり、レックスから勧誘された組織のリーダーだった。緊張しないはずがない。

  • 感覚の麻痺

    ※女体化ネタ「ちょ、っと、待て、ばかッ」 「少しだけ、少しだけだ」 「は、な、れ、ろ…!」 「……ふむ」

  • もう一度眠る前に

    帰ってくるなり、俺の姿を視界に認めるとユジンは、脱力して倒れこんできた。いきなりだったので慌てはしたが、どうにか彼を支える。一体どうしたのだろう。順当に考えれば仕事の疲れだろうけれど。

  • いっそすべて忘れてしまえば

    「俺たちのしていることは、本当に意味があるんだろうか」「どういうことだ?」「目標に近づくたびに思う。俺たちが海道義光を打ち倒しイノベーターを崩壊させ、そうして世界はどうなるのか」「ばかな、奴らはエターナルサイクラーを悪用しようとしているんだ…

  • 好きだから、愛しているから、

    拓也さんはどこか、何かに怯えているように見えた。八神さん、と呟く声も震えているようで。しかし質問するのも野暮な気がして、開こうとした唇を閉じてそのまま、彼のそれに重ねる。彼をそこまで追いつめているのはなんなのだろうか。

  • 不完全なひとの方が愛しい

    「拓也さん」社長室は広い。広すぎてここに一人でいるのは少し寂しいことなんじゃないかと思う。彼は強い大人だから何も思わないのだろうけど。あ、でも普段は一人じゃなくて、あの霧野さんもいるのか。そう思うと何故か少しもやもやする。「……拓也さーん、…

  • 世界はもうやさしくない

    「拓也」 呼ばれると、兄を思い出してずきりと胸が痛んだ。拓也をただ拓也と呼ぶ人物は、もうこの世には檜山蓮の他にいない。

  • ただ短い言葉だけでいい

    目覚めて初めに見たのは、知らない天井だった。頭がずきずき音を立てて痛む。昨日の記憶がない、これはまさか。思うけど、頭は上手く回ってくれない。 「……くそ」

  • そこに至る、までの

    力を入れないのは、入れる勇気がないから。入れたって大したことにはならない、傷も残らないだろうけれど、彼の苦しむ姿を見たくなかった。これ以上苦しんで欲しくなかった。触れた喉が、唾と息を呑み込んで動く。矛盾していることなんて、わかっている。

  • あたたかい

    「、……って、拓也さん!?」「ああ、起きたのか、カズ。打ったところは大丈夫か? 痛くはないか」「え、あ、あ……うん、ちょっと痛い、かも……」気がつくと大きな背中に揺られていて、実を云うと、本気で死ぬほど驚いた。起きたのを隠してもう一度寝るか…

  • きみの手のひらは優しすぎるんだ

    「今がどういう状況か、わかっているのか」 「わかっている。だから少し、肩の力を抜けと云っているんだ」 「それがどうしてこうなる」

  • 理由などありえません

    「……なぁ、ちょっと」 「ん? どうかしたか」 「すげぇ恥ずかしいんだけど」 繋がれた右手。身長と年齢差を考えて、どこから見ても親族にしか見えないんじゃないかなぁ、と思う。

  • 他愛なく

    声は出さずに息と唇の動きだけでそうか、と土御門は呟いた。 「殺したら、死ぬんだ」 「いや、死なねえけど」 「は?」 「お前にだけは殺されねえ」

  • 束縛してくれてもいいのに

    幼馴染みと恋人になるのって実際にはこんな感じなんだな、とか。他人が知らない、彼についてのことを知っている優越感。成長を側で見てきても、気づいていなかった変化を知ったときの驚き。それとときどき感じる、知りすぎていることへの不安感、エトセトラ。

  • しんと突き刺さる

    ふとしたときに耳を澄ましてしまうのは、彼らの、彼の声を聞きたいからで。それはつまり、彼がいなくなったことを気にしているからで。隣があまりにも静かなのが、痛い。思わず眉をしかめる。

  • 理由はない

    何かの滴が落ちる。ぴくりとも動かない頬に一粒だけ。彼が死ぬのを見るのはこれで二度めだ。悲しい、のだろうか。悲しいのだろう。あのときも悲しかったから。 (……本当に?)

  • にゃんにゃんにゃん

    ※猫の日ネタ「……は、え?」 思わず声が漏れるとはこのことだ。あまりの驚きに他に云うことが見つからない、とも云う。 「お前、それ」 「云うな。カミやんは何も云うな」

  • 感傷的になりすぎた

    くるくる、と中指で黒い塊を弄ぶ。口元にいつものような笑みを浮かべて。すっかりこちら側の生活にも慣れてしまったな、と溜め息を吐いた。彼は今ごろどうしているのだろうか。数日前から彼は遠征だ。

  • 譫言に似た、愛というもの

    「前から思ってたんだけどな、お前はなんでちゃんと前閉めないんだ」 呆れた顔で溜め息をつきながら、上条は土御門の浴衣を直してやる。癖なのかなんなのか知らないが、土御門は普段からやたら上半身の露出が多いと思う。

  • 願わくば、

    ふと、長方形に切ったオレンジ色の紙を手渡された。 「七夕だってさ、そういえば」 そういえば、と云うからには上条も忘れていたらしい。今日は七月六日で確かに翌日は七日で、七夕と云う行事がある。

  • 祈りは届かなくとも

    「土御門って指細いよなー、俺のと全然違う」 そりゃそっか、器用だもんな、とよくわからない自己完結をする上条。対して彼の手は至って普通の男子高校生と同じ、ある程度完成されてがっしりしたものだった。

  • 触れ方をしらないのはお互いさま

    「お前は……どうなんだよ」 土御門の肩を強めに掴んで離さないまま、これ以上ないほど真面目な顔で上条は尋ねる。その目にはいつもとは少し違う輝きが宿っていて、見つめていて目眩を起こすほど眩しくて、それでも土御門は、彼のために目を逸らさなかった。

  • 誰がための葛藤

    「幸せなのか?」 「くだらねェことを聞くンじゃねェよ」 そう吐くと、土御門はくすりと笑った。ばかにされているようで腹が立つ。そうではないとわかっていても。

  • 詰まるところ、静寂

    じりじり、肌の焦げる音が聞こえそうなくらい日射しが強い。8月の半ばと云えば当然なのだが、手に持った棒アイスが溶けるのは困る。でも部屋にいれば風がなくてそれはそれで暑いし、と云った具合。

  • その姿に触れたいと思うのが

    よく聞くが恋と云うものは複雑でしかし単純なものだ。どんな紆余曲折があったとして、一目惚れだって友情の延長線だってそのときの気持ちは結局「好き」の一言以外には表せない。と思う。

  • いらいら

    もう出会うことはないと思っていたが。別れも告げず、それがあの集団だったと思っていたのだが、偶然とは恐ろしいものだ。

  • 積極的じゃない彼へ

    箸で掴んだ自作ミニハンバーグを土御門の口に運びつつ、上条は非常に複雑な表情をする。 やっべー財布忘れちゃったなーとか云いそうな顔で、しかし云わずあからさまにこちらを見ているものだから、性分的に放ってはおけなかったのだ。

  • 誤魔化せるとでも

    「別に悪いことじゃないだろ、むしろカミやんは笑わなさすぎ」 そう云って、ぐいーっと真横に右頬を引きのばされた。いや、これ笑わせようとしてるってより遊んでるだけじゃないのか。妙に強い力のせいで全然口が動かせないので、言葉にならない。ただの唸り声だ。

  • 思考

    「……寝てしまった、か」 こんな状況に体勢で寝られるとはなんと無駄に器用な男だろう。逆に不器用と云ってもいいか。もしくはそんなに眠かったのか。

  • 絡まる

    ぼうっと何も考えず、無心にサングラスの奥を見つめてみる。意味ありげにも無計画そうにも見える笑みは何を考えてるのか本当にわからない。俺の周りはなんとなく直情的なやつが多くて(あとで云ったら人のことは云えないと諭された、少し心外だが確かに)珍しい人物かもしれない。

  • 暑さにやられたのです

    「……そういえば屋外プールとか、あったんだな……ここ」 「そうだな、いつも校舎とか校庭にいるから、あんま気づかねえよなー」 「そりゃ、水泳の授業くらいあるんだよなぁ……」

  • 綺麗じゃない告白

    「……え、いや、お前って音無が好きなんじゃなかったの?」 「見た目通りの鈍感なのか、貴様は」 「それ、答えになってないって……」

  • 団結力の無駄遣い

    「どうして黙ってたのよ」 「え、あ、いや、……」 そんなん誰だって隠したくなるだろう、むしろ怒られる理由がわからないんだが。音無と日向は互いにそう思いながら、腕組み仁王立ちするゆりの前に正座していた。

  • およそ一生の恋というものはない

    月の綺麗な夜、なんてかっこつけた形容。でも実際そうだったからそれくらいしか思いつかなかった。…そんな夜、日向はグラウンドで木製バットを持ち素振っていた。その顔は真剣そのもので、声をかけるのを躊躇うほど。

  • 恋愛パラドックス

    昨日のあのあとからずうっとそうだ。あいつの表情が、声が、感触が体から離れてくれなくて、焼きついたまま。逃げこんだ屋上で1人、あーとかうーとか唸り声をあげていた。

  • それくらい好きってことさ

    そうそれはいつだったか、野田に「なんでお前、そんな物騒なもん持ってるんだよ」とふと何の気なしに聞いた。「貴様に教えるほど安くはない」、そう険しい顔で吐きすてて物騒なそれを喉もとに突きつけられた。

  • 続く終わり

    「お前が……お前が、消したんだろ、あいつを!」 日向と名乗った男はただひたすら、激昂していた。あいつとは音無結弦のことだ。結弦はついさっき、――とは云っても2、3時間ほど前だが、この世界から完全に存在を跡形もなく消した。

  • とけていく

    融けていく。溶けていく。解けていく、自分と云う存在が。消えるときってこんなんだったのか、なんて呑気に考える意識もだんだん薄れていく。記憶のなかの五十嵐も、目の前の奏も。ついでに思いだした、日向のこえと顔も。

  • つめたい

    殺しても死なないと云う事実はあまりにも残酷だった。どんなに苦しくても、辛くても、痛くても、死ねないのだ。意識を手放そうとしても、手放したとしても、痛みにまた目を覚ます。

  • 再会=開始

    ※転生後ネタ 「いやー、まさかこんなところで音無に会えるとはなっ」 小学生のころ転校してしまった友人に高校で再会したときのような軽い口調で云うと、日向はコップのプラスチック部分をべこりと指でへこませながらアイスコーヒーを啜った。

  • 伝わる上昇体温

    ※学パロ 「おい日向。日向、起きろ」 「……あ…?」 頭をべしっと叩かれて眠りから覚めた。いってえ。痛みが時間差で襲ってくる。

  • 「ばーか」

    そんなんだから、…音無が、そんなんだから」 簡潔に云えば俺は泣いていた。音無に対するちょっとした嫉妬とか大袈裟だけど憎悪とか、恥ずかしいけど愛だとか、いろいろなものを混ぜこんだ涙。

  • アイラヴ、ユー

    まあ、今さら伝えることなんてないよな。もう充分伝わってるだろうし。そうだろ? …そんな顔すんなよ、なに、言葉で聞きたいのかお前は。

  • そんな、自己嫌悪

    「好きだ、音無」 確かめるようにそう云って、ふわり、日向は笑った。目を細めさせて。少し頬を染めて。普通は異性にする告白の言葉。 その笑顔が温かくて、ひどく恥ずかしくて、俺は目を逸らす。

  • どうしていつからこんなに

    死んだ世界にも、律儀に1日は巡ってくる。朝の光に目を醒ましたらすぐ横に音無の顔があって、一瞬驚いた。そいつはさも気持ちよさそうに眠っていて、俺が身体を起こしても起きそうにはない。

  • すれちがいトライアングル

    僕は音無さんが好きだ、それが友愛ではなく恋慕だと云うことは理解しているし否定する気も毛頭ない。 いつ惚れたかと云えば、まあ、話せば長くなるのだが――それよりも問題は、あの日向とか云う見た目からもうアホっぽいアホの存在だ。

  • 思い出さなきゃいけなかった、のに、それがよかったのか悪かったのかわからない。

    「……ゆづる、」 後ろから声が聞こえて、びくりと身体を震わせ振りむいた。結弦。俺の、下の名前だ。振り返って視線の先には、恥ずかしそうに苦笑する日向がいた。

  • このまま、ずっとこのまま

    日向の死因は、薬をやったこと、らしい。 「で、どんな気分だったんだ? そんとき」 「最高だったよ、そりゃな。あのときの俺にはそれしかなかった。禁断症状とか出ると最悪だけどさ」 「……はあ。やっぱり、そういうもんなのか」

  • 倒錯ロマンス

    「……俺のこと、嫌いか?」 音無はそんなギャルゲーとかで女の子が云っていそうな科白を吐いて、これまたギャルゲーとかで女の子がしてきそうな上目遣いをして俺をけしかけてくる、及び、見つめてくる。

  • とある二人

    「門田さん、プラモとか組まないっすか」 「お前、そういう分野も好きだっけ」 「いやいやそれは偏見っすよ門田さん。萌えも燃えも両立してこそ真の」 「もういい」

  • 本能と云う名の必然

    もう記憶は戻ったりしないと、理由はなくもわかる。そもそも失くしてしまったものを何の努力もせず取り戻そうなんておかしい話だ。何かのきっかけで戻ることもあるそうだが、失くしてから数ヶ月、戻らなくともいいか、と思うようになってきた。――記憶喪失ネタ⑥(完結)

  • 揺れ動く否と肯

    それで、一体どうして俺はこいつと一緒に夕飯を食っているのか。こいつは俺に飯を作らせにわざわざ来たのか。なんだかんだで2人分作ってしまった俺も俺だが、せめて手伝いくらいはしろ。――記憶喪失ネタ⑤

  • 不似合いセンチメンタリティ

    ……あ? と、声が漏れた。後ろから誰かに呼ばれた気がしたのだ。立ちどまり振りかえると、誰もいない。ポケットから出しかけた拳を持てあます。あんな呼び名で呼ぶ男は、この世に1人しか存在しないはずだった。――記憶喪失ネタ④

  • 「たまには」の効果

    「…っ」 やっちまった、という顔をしていた。ぶっちゃけある意味加害者である紀田正臣ですら、数秒ほど思考停止したくらいである。それは両方にかなりの衝撃を与えたようだった。

  • いっそ喋らなければいいのに

    別に俺だってこんな風になりたくてなったわけじゃない。すべてこの力のせいだなんてことは云えないけど、それは云いたい。近寄る奴をなくすためだ、と臨也に云ったらばかにされた。

  • それはいくつもの矛盾が重なった、ひとつの矛盾。

    ああそうさ俺は臆病者だ。杏里からも臨也さんからも門田さんたちからもサイモンからさえも帝人から、逃げだした卑怯なやつだ。開き直ってるんじゃない、認めてずっと償いもせず背負ってる。屁理屈でもそう云うならそれでいい、言及されることからも俺は逃げていたいからだ。

  • シュガースウィートナイトメア

    悪夢だ。それもかなりタチの悪い。そう思いたかった。まあ、目の前にあるのはどう見たって現実の産物なのだけど。

  • 希望は零距離

    「せめて静雄、って呼んじゃだめなんすか」 「だめだ。年上にはさん付けろ」

  • 部外者は所詮部外者

    あいつはいつものように笑わない。大嫌い、死ね、どうして生きてる、俺たちが会えば息をするように吐いていた言葉を吐かない。情報屋として仕事をして金をもらって企みごとをして、生きている。――記憶喪失ネタ③

  • 僕が愛せば、あなたは僕を愛してくださいますか

    ありえないですよ、ね。竜ヶ峰帝人は伏せた目で云った。でも好きなんです、すごく。どうしてかわからないんですけど。そう続ける。

  • 酔って酔わせて

    それが彼である必要はどこにもなかった。

  • それはキレてるからであって

    朝起きたら折原臨也が俺のプリンとスプーンを手に持っていつものニヤニヤ顔で立っていた。

  • The important thing which I have dropped.

    新羅のところに戻ったら、「あ、良かった、どこも怪我してないね。頭蓋骨粉砕くらいされるかなあって冷や冷やしてたんだけど」とかにこにこしながら物騒なことを云われて(そんなことされたら普通に死ぬじゃないか)、何か思い出した?と笑顔はそのままで聞かれた。――記憶喪失ネタ②

  • 未だ酔いは覚めない

    愛してる、とか云う言葉は俺のなかで軽くトラウマになっているのかもしれない。耳もとで囁かれるそれに、ぞわりと毛を逆立たせる。妖刀とやらの罪歌を思いだすからだ。

  • 乙女心はわからない。

    ※受女体化 「相変わらず女の子らしくないよね、君」 「潰すぞノミ蟲」 「……ほら、そう云うところも」

  • 君にいちばん近い距離

    犬だ。見たところ、まだ仔犬っぽい。首輪はついているから飼い犬だろう。まあ、今のご時世しかも都会で、野良犬などそうは見かけない。恐らくは飼い主とはぐれて彷徨っていたのだろう。

  • 殺したいのに、殺せない

    「このまま、俺に殺されるんだろうな。君は」 動けなくなった俺の体に覆いかぶさるようにして、いつもの3割増しくらいの薄気味悪い笑顔で臨也はそう云った。

  • でも、そんな君がすごく愛しい愛してる

    シズちゃんを見ていると、不意にとても強い支配欲が湧きあがってくるときがある。俺の狭い世界のなかでもっとも思い通りにならない人間(と云うよりは、化け物)である彼に対してそれを感じるのはいつものことだけど、もっと強いものだ。

  • 熱い頬にキスをする

    「ああ、好きだよ。どうせわかってんだろ、わざわざ云わせるな。ばか」

  • その名で呼ぶな、呼んでいいのはアイツだけだ。

    あぁ、何だっけな。何だっけ、忘れた。この男の顔はすごく覚えてるけどなんか見ててイラついてきたり愛しくなったりどんな関係か全然まったくわからない。うーん、面倒だな、記憶喪失ってのは。たぶん初めてなったのだろうけど、面倒だ。――記憶喪失ネタ

  • 進むあなたと進まない僕の足

    多分ではなく確定としてそれは僕の胸へすとんと落ちた。僕は彼が好きなんだ、僕が求めている非日常の一部である平和島静雄と云う彼が。

  • 手加減を知らないから

    ここまでくると立派に酔狂だとは思えども、玄関先に彼を見たとき、ちょっとだけ嬉しくなる。てっきりダンマリを決めこむかドアを蹴破るかエトセトラ何かしてくると予想していつでも逃げる準備はしておいたのだけど、外れて安心なのかどうか複雑な気分だ。

  • サプライズエンカウント

    恋というのは果ても底もない、ただ突きすすみ堕ちていくだけの感情である。ある種、夢に似ている。果ても底もないと言っても、醒めたときは別だ。そんな所も含め、似ている。

  • 朝、あるいは幸せ

    「好きでも嫌いでも、シズちゃんがこの世界でいちばん。それって素晴らしい事だと思わない?」

  • 表が裏に、裏が表になるように

    世界が反転した、気がした。それほどの衝撃。 「、…!?」